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翼を持った鳥達

カテゴリー:その他

翼を持った鳥達

(全0話)

完結

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タイトル

2009/07/03

翼を持った鳥達7


本文



 第30章


テロへの警戒を強めながら、会議は明後日へと迫っていた。
国際研究機関の修復工事も大分進んで、正面玄関は綺麗に内装が仕上が
っていた。国際会議の日までは正面玄関は完成させようと、工事を着工し
ていた介もあった。
新しい玄関に入ってすぐには、平和をイメージした銅像も作られた。
あのテロの事件の日を、皆の心の中に刻んで置こうと思っていた。
綾乃はその銅像を見る度に、平和について強く思っていた。
リーガル教授を囲んで、入念は打ち合わせが行われていた。
明日には、各国の出席者達が入国して来るのだ。
歓迎レセプションや、会談の準備にも余念がなかった。
鷲尾も腕の包帯も取れて、すっかり右手も使えるようになっていた。
「じゃあ、今日は此処で解散します。明後日の会議に向けて、ゆっくり
休んでください」
リーガル教授は、今日はいつもより早く終わる事にした。
「私は、鷲尾さんと一緒に前夜レセプションパーティーに出席するので、
皆、早く帰って明後日に備えてください」
リーガル教授はそう言うと、部屋から出て行った。
「お疲れ様」
皆、口々に挨拶をした。
綾乃は、今日は藤山と会う約束をしていた。
「鷲尾さんお疲れ様、大変ですね」
綾乃は、鷲尾に労いの言葉を掛けた。
「ありがとう。これも仕事だからね」
鷲尾は、爽やかに笑った。
「明日は、現地集合だから遅れようにね」
明日は、レセプションホールでの仕事だった。
「分かりました」
綾乃は挨拶をして、オフィスを出て行った。
今日は、藤山がオフィスの前まで迎えに来てくれる事になっていた。
テロの事件以来、藤山は何かと時間を見つけて綾乃に接してくれていた。
少し過保護すぎるきらいがあると思ったが、それはそれでいいのかもし
れないと思っていた。
でも、最近そんな藤山に素直に喜べなくなっていた。
「綾さん」
藤山はスーツを着て、オフィスの玄関に座っていた。
「あら早かったのね。待った」
 「いや、丁度着いたばかりだよ」
藤山は、機嫌良く言った。
「じゃあ、行こうか」
藤山に言われて、綾乃は一緒に玄関を出て行った。
今日は、和食の店で食事をする事になっていた。
藤山の車に乗って、二人はその店に向かった。
ニューヨークにある小奇麗な日本料理店に、二人は入っていた。
店の外には小さな日本庭園もあった。
入り口に生けてある花が、来る者を和ませてくれていた。
二人は個室に入って行った。
綾乃は明日は早くから仕事なので、今日はお酒は頼まなかった。
二人は、日本茶で乾杯をした。
お通しのイクラのおろし合えが、運ばれて来た。
「綾さん、お疲れ様。いよいよ、明日から本番だね」
「ありがとう。お陰様で、此処までこれたわ」
綾乃は嬉しそうに、お通しを食べていた。
日本料理と言っても、それ程肩肘張ったお店ではなく家庭的な料理も多
かった。
やがて、お刺身膳が運ばれて来た。
お刺身の盛り合わせに、豆腐の冷奴。お味噌汁に、2品ぐらい小鉢がつ
いていた。
「やっぱり、和食が落ち着くわね」
綾乃は、早速ご飯を食べた。
 「ああ。お米は日本人の活力だからね」
藤山も、ご飯茶碗を手に取った。
こうしていると、日常の慌しさも一時忘れられる様だった。
二人は、取り留めのない話をして食事を楽しんでいた。
「此処では締めにお茶漬けを作って貰えるんだけど、食べる?」
「本当、食べるわ。お茶漬け大好きだもの」
綾乃は喜んで言った。
「良かった。食欲あるようだね。これなら大丈夫そうだ」
綾乃は、その言葉に思わず恥ずかしくなった。
いつも、食欲の秋の自分を感じていた。
やがてお出汁のきいた、お茶漬けが運ばれて来た。
茶碗からは湯気が立って、出汁のいい香りが漂っていた。
「わあー、おいしそうね」
綾乃は、お茶漬けを食べた。
藤山は、そんな綾乃を微笑ましく見ていた。
「ところで綾さん。僕、明後日仕事を休もうと思っているんだ」
「どうして?」
綾乃は不思議そうな顔をしていた。
「明後日は国際会議の日だろう。綾さんが心配で。中に入れなくても、
近くにいようと思って」
綾乃は、驚いて藤山を見た。テロの情報は外部に漏れていない筈だった。
「そんな、大袈裟よ。わざわざ休まなくても大丈夫よ」
綾乃は、取り繕った。
「いや、テロの可能性があるかもしれないいんだろう。ニュースでやっ
ていた。それに、あれだけの事があったんだから、僕も用心した方がいい
と思っている」
藤山は、真剣な表情だった。
綾乃は、やっぱり藤山は誤魔化せないと思った。
「ありがとう、気持ちだけは頂くわ。でも、大丈夫。これは私の仕事だ
から」
「でも……」
「これは私達の問題なの。信さんまで巻き込む訳にはいかないし、それ
に心配してくれるのは嬉しいけど、自分の仕事を大切にして欲しいの」
綾乃は、穏やかな表情で藤山を見つめた。
藤山は、決意を秘めた綾乃の目を見てハッとした。
 「そうか。僕も大袈裟だったね」
 「でも、嬉しかったわ」
その気持ちは本当だった。
 「綾さん、君の仕事への気持ちを聞いて僕はハッとされられたよ。まだ
まだ、僕は甘かった」
「そんな事……」
「いいんだ。でも、やっぱり僕は綾さんと付き合っていて良かったと思
ったよ」
藤山はそう言って、綾乃に微笑んだ。
「あっ、いえ、買い被りよ」
綾乃はドキッとして、手を振って誤魔化した。
「さあ、明日も早いし、これを食べたら帰ろう」
「そうね」
二人は和やかな気持ちで、お茶漬けを食べた。
食事を終えて、店を出た綾乃は藤山に自宅まで送って貰う事になった。
綾乃は、車の窓から街のイルミネーションをボンヤリと眺めてた。
こんなありふれた日常が大切な事だったなんて、先日の事件で改めて分
かったのだ。
いつしか、車は自宅の前に着いた。
「着いたよ」
藤山に言われて、綾乃はハッとした。
「ありがとう」
綾乃はお礼を言って、車から出た。
「信さん、良かったらお茶していかない?」
綾乃は車の藤山に声を掛けた。
「ありがとう、でも今日はいいよ。明日は早いんだろう」
藤山は笑った。
「そう。ありがとう」
綾乃は、気遣いされている事を感じていた。
「あっ、そうだ」
藤山はそう言って、車を降りた。
「どうしたの?」
綾乃は、何か忘れ物でのあったのかと思っていた。
「忘れ物」
藤山は、そう言うと綾乃を抱き寄せた。
「えっ」
綾乃は驚いて、立ち尽くした。
「約束だよ。国際会議を無事に成功させて、また食事に行こう」
藤山は温かい眼差しで、綾乃を見つめた。
「分かった」
綾乃はそう言って、目を閉じた。
夜空の下、二人の姿がいつまでも月明りに照らされていた。
いよいよ、国際会議の前日がやって来た。
各国から、会議の出席者達が次々と来日した。
物々しい警備の中、綾乃の仕事は始まった。



 第31章


綾乃はレセプションホールで、最後の詰めに入っていた。
鷲尾が現場の指揮を取って、皆、それに従って動いていた。
会場には、多くのマスコミも駆けつけていた。
「取材は後程、お願いします」
綾乃は、説明をして回っていた。
あいにく天候が悪く、雨がパラついていた。
国際会議の会場のホテルでは、既に予備会談が行われていた。
リーガル教授はその場に、別の職員と共にいた。
「会議は予定通り、行われているそうだ」
 鷲尾は現場からの、連絡を受けていた。
「そうですか」
 「今の所、異常はないそうだ」
「良かったですね」
綾乃は、ホッとしていた。
昨日、藤山があんなに心配していて、何かあったら仕事を置いて駆けつ
けそうに思えていた。
「仕事、仕事」
綾乃は頭を切り替えて、次の仕事に取り掛かった。
藤山は、瀧川流のインターナショナル能楽教室で稽古をしていた。
いつものように弟子達に厳しく指導をしていたが、今一つ雑念に捕らわ
れそうになっていた。
「はい、此処まで」
藤山は稽古を切り上げると、自分の部屋に戻った。
新春の能楽に向けて、やる事は沢山あった。
でも、今一つ仕事に気合が入らないでいた。
藤山は自分のデスクの椅子に寄り掛かって、ため息をついた。
先日のテロ事件の時、ニュースで知った水上から直ぐに連絡があった。
世界各国を飛び回っている水上でさえ、非常に驚いていた。
そして綾乃の身を心配していた。後日、綾乃に水上と早苗の連盟でお見
舞いが届けられたが、二人共、心配していた様だった。
その時、水上にそれとなく言われていたのだ。
「藤山さん、永井さんとの事どう考えてるの」
「どうって、これから先の事も真面目に考えているよ」
「人はタイミングって大切だと思うよ。大切な人なら尚更」
水上は綾乃の事を、心配していた。
真面目で、人一倍努力家の彼女を、いつまでも一人にして置く事は考え
るべきだと言っていた。
藤山もその事は、よく分かっていた。
でも、そうは言っても様々な問題もあった。
いつまでも藤山もアメリカに居る訳にはいかない。それに綾乃だって、
いつ海外に転勤になるか分からない。
藤山は、一番言い方法をいつも考えていた。
それが、彼女にとっても自分にとっても最善の策であればいいと思って
いた。でも、その事をいつまでも考えている時間はないと、この間の件で
悟っていた。
藤山は、窓の外のを見つめていた。
夕方になって、レセプション会場の準備も大分進んだ。
雨は本降りになって来て、雨足が強くなってきた。
会場の外では、水しぶきを上げて車が走っていた。
「これじゃ、招待者も大変ね」
綾乃は、外の様子を見ていた。
予備会談も終わって、招待客も続々と訪れる予定になっていた。
「永井さん、そろそろ着替えてきたら」
 接待用に着替えてきた、鷲尾がやって来た。
「はい」
綾乃が振り返った。その時、鷲尾の姿に思わずドキッとしたのだ。
只でさえ、長身で端正な顔立ちの鷲尾だったが、改まった服装をしてい
るとそれが際立っていた。
「どうしたの?」
「あっ、いえ。行って来ます」
綾乃はドキドキしている、自分に動揺していた。
――何、私思っているんだろう――。
ヒールの音を立てて、走っていた。
夜になり、盛大にレセプションパーティーが行われた。
物々しい警備の中、多くの関係者が訪れ、カメラやフラッシュが向けら
れた。テロ事件の後という事もあって、この国際会議は注目されていた。
招待者の煌びやかな服装を見ていると、あの凄惨な事件が、昔の事の様
に思えていた。
綾乃は、会場の様子を注意深く見ていた。
「順調に進んでいるね」
鷲尾が、話し掛けてきた。
「そうですね」
綾乃は、答えた。
「食事、ちゃんと食べた」
鷲尾は、綾乃を気遣った。
「いえ、あまり食欲無くて。でも、大丈夫です」
「そうか。無理するなよ」
鷲尾はそう言って、戻って行った。
綾乃は何故かホッとした。鷲尾といると、気が重かった。
自分自身が分からなかった。
綾乃は胸に手を当てて、ため息をついた。
レセプションパーティーは無事に終わった。
特に、警備上の問題もなく、出席者達も喜んでいた。
片づけを終えた頃には、10時近くになっていた。
「皆、お疲れ様」
リーガル教授が、皆に労いの言葉を掛けた。
「お疲れ様です」
「今日は、此処で解散します。明日は、各自持ち場の部署に出勤して下さ
い」
「はい」
皆、無事に終わった事を喜んでいた。
「いよいよ、明日だな」
「やっと、此処まで来たか」
皆、口々に言葉を交わしていた。
「永井さん、ちょっと」
帰ろうとした綾乃は、鷲尾に呼び止められた。
「はい?」
「良かったら、これから一緒に食事に行かないか?」
「えっ、今からですか?」
「ちゃんと夕飯食べてないだろう。まあ、僕も食べてないけど」
「えっ、でも」
 「明日も遅くまで仕事なんだ。きちんと食事をした方がいい」
 綾乃は、鷲尾を断る事が出来なかった。
二人は、夜遅くやっている和食の店に向かった。
「軽い物が、いいだろう」
鷲尾はそう言って、綾乃をお店に案内した。
ビルの上の階にある店の窓からは、夜景が見えた。
綾乃は、雑炊を頼んだ。
「それだけで、いいの?」
「ええ」
「追加したかったら、何か頼むといいよ」
鷲尾はそう言った。
「永井さんには、怪我をした時色々とお世話になったから、お礼がした
かったんだ」
「そんな事、気にしないでください」
綾乃は、取り繕った。
やがて、料理が運ばれて来た。
鷲尾はブリの照焼きを頼んでいた。
「旬の物は、体にいいんだ」
そう言って、食べていた。
「二日続けて和食だと、健康的になりそうです」
綾乃はそう言って、雑炊を食べた。
「昨日の、和食のお店に行ったの?」
「ええ」
「悪い事したかな」
鷲尾は、すまなそうな顔をした。
「いえ、そんな事ないです。疲れた時は、日本食が一番ですから」
綾乃は笑った。
「昨日は、誰と行ったの?」
鷲尾は、さりげなく尋ねた。
「えっと」
綾乃は、どう答えていいか悩んでいた。
「もしかしてデート?」
鷲尾は察したように、綾乃に言った。
「はあ」
 綾乃は何となく照れていた。
「いいねえ。そうえいば藤山さんだっけ、好青年だよね」
「そうですか?」
意外な言葉に、綾乃は驚いていた。
「この前、大事にされてるなって思ったよ。彼氏大切にしないとね」
鷲尾はそう言って、微笑んだ。
上司としての、部下へのアドバイスだったのだろう。でも、綾乃は何故
か心が晴れないでいた。
「ありがとうございます」
そう言ったものの、気持ちは裏腹だった。
「いよいよ、明日だね」
鷲尾は、国際会議に話題を切り替えた。
「はい、やっと此処まで来ましたね」
「明日、国際会議を成功させて、あの事件を無駄にしないようにしよう」
鷲尾は、前を見つめた。
「そうですね」
綾乃は、深く頷いた。
雨は続いていた。
綾乃と鷲尾は雨の中、傘をさして歩いていた。
「本当に、送らなくて大丈夫かい?」
「ええ」
鷲尾は地下鉄の駅の前に立っていた。
「今日は、本当にありがとうございました」
「いや、気をつけてな」
綾乃は振り返って、歩こうとした。
「永井さん」
「はい?」
綾乃は立ち止まった。
「国際会議が無事終わったら、改めてお礼をさせてくれないか?」
 鷲尾は真面目な表情だった。
「分かりました。会議が終わったらまた行きましょう。ありがとうござ
います」
綾乃はお礼を言って、足早に駅の階段を降りて行った。
また会う約束の言葉の響きが、とても心地よく感じていた。
鷲尾は、振り返って道を歩いた。



 第32章


昨日までの雨が上がって、今日は快晴だった。
いよいよ、国際会議の当日になった。
綾乃は、鏡の前でスーツを整えると部屋を出て行った。
ニューヨークの秋の空は高く、爽やかな風を運んでいた。
国際会議の会場のホテルには、既に多くの関係者が駆けつけていた。
ホテル側の従業員も、大忙しで働いていた。
「おはようございます」
鷲尾が、当日会場勤務の職員達に挨拶をした。
「おはようございます」
「いよいよ当日になりました。これから、出席者の方々が来られます。
まだテロの可能性もありますので、十分に気をつけて任務にあたって下さ
い」
「はい」
皆、緊張した面持ちで返事をした。
綾乃は、会議室のセッティングの確認に向かった。
会議室の周囲は、既に物々しい警備が敷かれていた。
綾乃は職員のIDカードを見せて、部屋に入った。
既に業者によって、支度は整えられていた。
鷲尾も、後から入って来た。
「マイクの確認をするから、ちょっと喋ってみて」
鷲尾に言われて、綾乃はマイクを手に取った。
「マイクの確認中」
音は、会議室に響き渡った。
「よし、大丈夫そうだな」
鷲尾は、持ってきた資料にペンで印をつけていた。
「いよいよですね」
綾乃は、鷲尾に話し掛けた。
「ああ、でもまだテロの情報もあるので油断は出来ない」
鷲尾はそう言って、ペンを閉まった。
綾乃は、少し重い気分になった。
その頃、藤山はインターナショナル能楽教室に出勤していた。
綾乃には来なくてもいいと言われていたけれど、落ち着かないでいた。
朝のニュースでは、今日の国際会議について放映されていた。
「家元代理、お時間です」
弟子が部屋に入って来た。
「分かった、今行く」
藤山は返事をして、席を立った。
――綾さん。無事、成功する事を祈っている――。
ただ、綾乃の無事を祈っていた。
国際会議の会場には、次々と出席者達が入って来た。
物々しい警備の中、次々と控え室に入って行った。
リーガル教授は鷲尾と共に、受付の準備をしていた。
綾乃は、控え室の手伝いをしていた。
そろそろ、国際会議場に入る時間になった。
最後の出席者もやって来て、いよいよ会場入りとなった。
綾乃は出席者達を受付へと案内した。
リーガル教授と鷲尾は受付をして、会場内へ出席者達を迎え入れた。
やがて、ドアは閉められた。
綾乃と鷲尾は、職員の控え室へと入った。
「やっと、一息つきましたね」
綾乃は疲れたように、椅子に座った。
「そうだな」
鷲尾はそう言って、腕時計を見た。
会議は、後もう少しで始まる事になっていた。
その時、控え室にホテルの副支配人らしき人が入って来た。
「大変です。爆発物らしき物が見つかったようです」
「なんだって」
鷲尾は血相を変えて、立ち上がった。
綾乃と鷲尾は急いで、その現場に向かった。
既に周りは警官に囲まれていて、爆発物処理らしき人々もいた。
「会議は中止した方が」
綾乃は、鷲尾の方を見た。
「いや、状況を確認してからだ」
鷲尾はそう言って、警官に状況説明をして貰っていた。
間もなく、鷲尾と警官が、綾乃の所へやって来た。 
「会議は予定通り開催する」
「でも……」
綾乃は、言葉を濁した。
「爆発物の処理は、無事終わりました。大丈夫です」
 警官は状況を説明した。
鷲尾は直ぐに携帯電話で、リーガル教授に連絡を入れた。
手早く話を終えると、綾乃の元にやって来た。
「永井さん。今、リーガル教授に指示を仰いだ。会議は、予定通り行うそ
うだ」
鷲尾は冷静だった。
「分かりました」
綾乃は、そう言った。
「私は、又説明を聞いているので、先に控え室に戻っていてくれないか」
「はい」
鷲尾に言われて、綾乃は控え室に戻る事にした。
控え室には、職員が出払っていて綾乃一人しかいなかった。
綾乃は部屋の椅子に座ると、深呼吸をした。
この後に及んで、テロなんて――。
やりきれない思いで、一杯だった。
会議は開始され、辺りは静かになった。
綾乃は一人で、不安な気持ちだった。
やがて、鷲尾が戻って来た。
「状況説明は終わったよ。上部にも報告したし、一段落着いたな」
鷲尾は、ホッとしたような顔をしていた。
「そうですか、良かったですね」
綾乃は冴えない顔色で返事をした。
「永井さんどうしたの?顔色悪いけど、気分でも悪いの?」
鷲尾は、綾乃に声を掛けた。
「いえ、ちょっと又緊張してしまって」
綾乃は、この前のテロの事件を思い出していた。
「大丈夫だよ。もう、犯人らしき人も捕まったみたいだし」
鷲尾はそう言って、綾乃の隣に座った。
「そうですか」
綾乃は顔に手を当てて、ため息をついた。
「色々あったけど、もう会議も無事に進行している」
鷲尾はそう言って、綾乃に微笑んだ。
「そうですね」
綾乃は疲れた様に、返事をした。
その時、鷲尾は綾乃の手を握った。
 「もう、此処まで来たんだ。もう少しだよ」
そう言って、優しい眼差しを向けて、手を握り締めた。
「そうですね。ありがとうございます」
綾乃はそう言って、深く息をした。
国際会議は終わった――。
フラッシュに囲まれながら、各国の出席者達が出て来た。
綾乃は会場の外から、遠目でその様子を見ていた。
最後の記者会見の仕事が、残っている。
会議の余韻も程々に、次の仕事に取り掛かった。



 第33章


国際会議の成功は、ニュースで放映された。
爆発物が見つかった事は、内々に伏せられていた。
やがて、主催者国の記者会見が始まった。
目映いフラッシュの元、出席者とリーガル教授が映し出された。
鷲尾はその側で、様子を見守っていた。
綾乃は控え室で、テレビのモニターを見ていた。
晴れやかな表情で、出席者は会議の成功と功績を述べていた。脇では、
リーガル教授が補足説明をしていた。
皆、テレビのニュースで記者会見の様子を見守っていた。
藤山は記者会見の模様を、自動車のテレビで見ていた。
綾乃には来るなと言われていたが、どうしても心配で、仕事も早々に抜
け出して来ていた。
そして、会場の近くまで車を走らせていた。
交通規制も緩和され、通常通りの街に戻りつつあった。
綾乃は、今までの長かった日々を思い出していた。
この会議の為に出会った人々、そして様々な事柄。全てを乗り越えて、
今があった。
記者会見は終わった。
目映いフラッシュの中、会見者達がお辞儀をした。
皆、職員達は拍手をしていた。
鷲尾も傍らで、拍手をしていた。
リーガル教授と鷲尾が控え室に戻って来た。
「教授、お疲れ様でした」
皆、一斉に拍手で迎えた。
「会議は終わった。皆さん、今までお疲れ様でした」
リーガル教授は、涙ぐんでいた。
女性職員の中には、泣いている者もいた。
会議が終わり、担当の職員達がそれぞれ後片付けをしていた。
綾乃は会見室の後、片付けをしていた。
今日、此処で会議が終わったのだ。
「お疲れ様」
その時、鷲尾が入って来た。
「僕も、手伝うよ」
「ありがとうございます。でも、殆ど終わっています」
綾乃はそう言って、微笑んだ。
鷲尾は綾乃の隣にやって来た。
「無事に、会議が終わったな」
「ええ」
綾乃は感慨深く返事をした。
此処に来るまで、様々な人に支えられてきた。その事に感謝していた。
そこには藤山の姿もあった。
「ありがとう」
「えっ?」
綾乃は鷲尾の言葉に驚いて、振り返った。
鷲尾は、今まで見た事もないような温かな表情をしていた。
「此処まで来れたのは、永井さんの力もあったからだよ」
「そんな、私大した事してないですよ」
綾乃は慌てて、手を振った。
「そんな事ないよ。もっと、自分の力を過信しなくちゃ」
鷲尾はそう言って、微笑んだ。
「ありがとうございます」
綾乃は素直にお礼を言った。
「これからも宜しく」
鷲尾はそう言って、綾乃に手を差し出した。
「あっ、こちらこそ、お願い致します」
綾乃はそう言って、差し出した手を握った。
二人は固い握手を交わした。
「さあ、早く片付けて家に帰ろう」
「そうですね」
綾乃は急いで支度をした。
綾乃が片づけを終えて会場を出た頃には、すっかり夜も更けていた。
藤山は会場から出て来た綾乃の姿を見つけたが、声を掛けずそのまま車
を走らせた。
綾乃に自分の仕事をするように――と言われた手前、仕事を早々に切り
上げた事は、知られたくなかった。
――綾さん、無事で何よりだ――。
藤山は内心、喜びながら綾乃の姿を見送った。
綾乃は藤山に気付く事なく、帰り道を歩いていた。
ニューヨークの街並みのイルミネーションが輝いていた。
長い一日が終わったのだ。
やっと、鷲尾とも意思が通じるようになったのだ。
でも、それは今までとは違う感情だった。
綾乃は立ち止まって、会場を振り返った。
そこには様々な人の思いが、詰め込まれていた。
きっと、この日の事は忘れないだろう――。
綾乃はそう思いながら、また元の道を歩き始めた。

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