□Ⅰ□
陽の翳った列柱廊を、一人の男が歩いて行く。
真直ぐに伸ばされた背筋に迷いは無く、
彼は視線を前に向けたまま、大股に目的の場所へと歩みを進めて行く。
柔らかな丁字の髪も、光に透け、翡翠の緑に見える瞳も、
宮廷では決して珍しい色ではない。だが、男の姿は見る者に鮮烈な印象を与えた。
眉間に走った、一条の傷痕ゆえに。あるいは、その身に纏う鎧ゆえに。
上等の紫紺の鎧(ロリカ)は・・・

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□Ⅲ□
『忘れないで、あなたは決して独りではないわ』
耳朶に甦る、去り際の皇女の言葉──。
向けた背に投げ掛けられたそれは、いつまでも彼の心へと居座って、
未だ癒えぬ傷痕をじくじくと疼かせた。
思いもかけぬ救いの言葉は、甘い毒のように心に染み渡り、
男の堅く鎧った心を内側から突き崩さんとしていた。克己も、矜持も、
すべてを棄てて跪き、己が心の弱さも、脆さも、醜さも、
何もか・・・

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□Ⅰ□
時を同じくして、広大なパラティウム宮の別の一郭では、
新しく隊長職に任じられることになったアドウェントゥスが、自室に一人の客人を迎え入れていた。
他者の耳に入れたくない、内密な話をする場所として適切かと言えば微妙だが、
宮殿は人の出入りが多く、例え、本来は関わり無い者が紛れていたところで、
訝る者はない。そういった意味では、密談に非常に適した場所だとも言えるだろう。
「・・・

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